昆虫が見ている世界
気持ちの良い朝に部屋の換気をすると、1匹のハエが部屋に迷い込む。そのことはつゆ知らず、1日が終わり、そろそろ寝るために電気を消そうとした時、招かざる客(ハエ)は容赦なくブンブン音を立てて飛び回る。ハエは一心不乱に蛍光灯の光に向かって体当たりしている。これは眠れない。ノートを折り曲げて叩いてみるものの、するりと逃げられる。そうこうしている間に時間が過ぎ、諦めて寝ようとしてみるが、羽音が気になって眠れない。悩ましい…。こんな経験はどなたでもあるのではないでしょうか。
5月にハエが多く発生して煩わしいことから、「五月蠅い(うるさい)」という漢字が用いられてきました。昔から日本人にとって、ハエは悩みの種だったのかもしれません。なぜ、人はハエに悩まされ、イライラさせられるのか、そのことについて今日はお話したいと思います。ハエのブンブンという音と、ノートで打ち落とせないハエの飛翔能力はどこからくるのでしょうか。ハエは、羽を1秒間に300回も上下に羽ばたき、その体長の250倍も飛びます。この高速の羽ばたきによって、ブンブンという羽音が鳴ります(ちなみにミツバチは1秒間に200回前後)。このハエの飛翔運動を誘導しているのが複眼です。複眼については以前のコラムでも書きましたが、ハエなどの昆虫は、人よりも視界の解像度は劣りますが、視野が広く、動いて捉える時間的な解像度[1]は非常に高いといわれています。
たとえば、蛍光灯が1秒間に100回点滅していることに人は気が付きませんが、ハエには点滅しているように見えます。また、映画のフィルムのつなぎ目も人は気が付きませんが、ハエには1コマ1コマ止まって見えます。このようにハエは視覚に誘導されて飛翔します。人がノートで打ち落とす動きは、ハエにとってスローモーションのように見え、簡単に逃げられてしまいます。ちなみに、ミツバチなどの蜂もハエと同じように時間的解像度が高いのですが、蜂の場合は、ハエと同じように叩こうとすると、刺してきますので注意が必要です。
人より時間的な解像度が高い昆虫は、1秒間に捉える画像のコマ数が多いので、その分、人よりも密度の高い時間を過ごしているのかもしれませんね。
[1]「時間的な解像度」とは、1秒間に何回の明暗の変化を見分けることができるのかを評価され、「ちらつき融合頻度」と呼びます。たとえば、人では15ヘルツ〜60ヘルツ(1秒間に15〜60回)、ハエやミツバチは200ヘルツ〜300ヘルツと言われています。
参考文献:「昆虫 驚異の微小脳」 水波 誠 著、「ハチは心を持っている」 ラースチットカ 著筆者:専務 山田