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【研究レポート】ミツバチの扇風行動 ニ種の換気方法の違いについて

2026年08月23日
【研究レポート】ミツバチの扇風行動 ニ種の換気方法の違いについて

 記録的な猛暑が続き、日本の至るところで最高気温が40度に迫る異常な暑さが観測されています。私は、長野県諏訪市に住んでいますが、ここ諏訪市で幼い頃に過ごした夏は、最高気温が30度に届くか届かないかという涼しさで、まさに「避暑地」と呼ぶにふわしい場所でした。しかし今や「暑い地域」に変わりつつあります(長野県でも標高1000メートル以上の高地へ行けば、涼しい避暑地と言えますが)。

 このうだるような暑さの中、街中では片手で持ち運べる小型扇風機「ハンディファン」を片手に風を浴びて涼む人々の姿を見る機会が増えてきました。とても涼し気です。また、外で働く方も、空調服を着たり、保冷剤を仕込んだベストを身につけたりと、さまざまな工夫で暑さを凌いでいます。

 では、この過酷な暑さの中、ミツバチはどのように暮らしているのでしょうか。ミツバチの巣箱の中には、扇風機もクーラーもありません。それにもかかわらず、1つの巣箱の中には2万匹以上のミツバチが密集して生活しています。人間からすれば、あまりの暑さでとても耐えられるものではありません。

 しかし、ミツバチにとっては、巣の中を暑いままにしておくわけにはいきません。ミツバチは、巣の中の温度を常に30〜35度の適温に保つ必要があります。こうした条件の中、どのようにして温度調節を行っているのでしょうか。


巣を冷やす「扇風行動」とは?

扇風機やエアコンのないミツバチたちが編み出した方法、それは「扇風(せんぷう)行動」です。 「扇風行動」とは、ミツバチが羽を高速で動かすことで、巣の中に風を送り込んだり、巣の中にある暖かい空気を外へ出したりして空気を循環させ、巣内を適温(30〜35度)に保つ行動のことです。この空気の入れ替えは、ミツバチが出入りする巣の玄関口である「巣門(すもん)」で行われます。

実はこの扇風行動、ミツバチの種類によって換気の仕方が異なるのをご存じでしょうか。 日本に古来から生息する在来種「ニホンミツバチ」と、現在の養蜂の現場で広く飼育されている「セイヨウミツバチ」とでは、真逆の換気方法をとっているのです。

  ·         ニホンミツバチ:巣の外から中へ空気を送る。【送風】

·         セイヨウミツバチ:巣の中にある暖かい空気を外へ出す。【排出】

同じミツバチでありながら、なぜこれほど異なる換気方法をしているのでしょうか。本レポートでは、3つの研究論文をもとに、この謎について迫っていきたいと思います。

    第1章:両種の具体的な換気方法とその仕組み

  第2章:扇風行動を開始する引き金(動機)と、両種の動きに関する論文の実験結果

  第3章:なぜ換気方法が異なるのか?


第1章:両種の真逆の換気方法

まずは、ニホンミツバチとセイヨウミツバチが具体的にどのように空気を循環させているのか、その方法を見ていきましょう。

1. ニホンミツバチ:外気を取り入れる「送風型」

ニホンミツバチは、頭部を巣の外側(巣門の外)に向けて羽を動かします。 巣門の近くにいるミツバチたちが外の新鮮な空気を巣の中に送り込み、その空気を巣の中にいるハチたちがさらに奥(上方)へと送り、循環させています。

※赤い矢印の方向が頭部の方向です。 ※空気の循環図。論文[1]から引用。

2. セイヨウミツバチ:巣の中の熱を外へ出す「排出型」

セイヨウミツバチは頭部を巣の内側(巣の方向)に向けて羽を動かします(ニホンミツバチとは逆方向)。 巣の中にいるミツバチたちが巣の奥から空気の流れを作り出し、巣の床付近(底部)にいる多くのミツバチたちが巣門に向かって、こもった暖かい空気を外へと排出します。

 

 

 

 

※赤い矢印の方向が頭部の方向です。 ※空気の循環図。論文[1]から引用。


第2章:ミツバチが扇風を始める条件と行動の特徴

ミツバチたちは、どのようなきっかけで扇風行動を始め、どのようにして体の向きを決めているのでしょうか。これらを解き明かす3つの興味深い論文を紹介します。

論文1:体の向きを決める「光」と「仲間」の存在

両種の扇風時の体の向き(以下、定位方向)がなぜ逆になるのかをテーマにした研究[1]では、ミツバチの定位方向を決定する要因を探るため、2つの実験が行われた。

          実験 ①「光」の影響  夜間の野外において、扇風行動をしているミツバチの体軸に対して90度の角度からペンライトの光を当て、その反応を観察。

    結果:巣門付近・巣内ともに、両種は光の方向へそれぞれの定位方向で向いた。

・  ニホンミツバチ:頭部を光の方向へ向けた。

・  セイヨウミツバチ:お尻(尾部)を光の方向へ向けた。

この結果から、外界の光が、扇風中のミツバチの定位方向を決定する重要な要因になっていることがわかります。(両種それぞれ光への反応の違いがあるとの研究結果でしたが、今回は割愛します。)

          実験 ②「仲間が作った気流」の影響  扇風しているセイヨウミツバチの巣箱の床(一部)を回転させ、ハチたちの向きを強制的に変える実験を行いました。

    結果:ほとんどのハチが、再び他の扇風しているハチと同じ向きへと定位し直しました。 このことから、セイヨウミツバチは仲間が作り出した空気の流れ(気流)に影響を受けながら自分の向き(定位方向)を決めていることが示唆されました。

また、この論文の結びでは、ニホンミツバチの定位方向がなぜ頭部を外に向けているのかについて「スズメバチなどの天敵に対する対応」という可能性があることを指摘されていました。つまり、頭を外に向けていれば天敵を発見しやすくなり、さらに巣内の匂いを外部へ拡散しにくくする(敵に巣の場所を特定されにくくする)ため、このような扇風行動になったのではないかと述べていました。

 

論文2:組織化された効率的な換気システム

ミツバチは、どのような状況になると扇風行動を始めるのでしょうか。セイヨウミツバチのコロニー(群れ)のみを対象とした論文[2]の研究では、扇風行動が単なる個体行動ではなく、集団として組織化された高度な換気システムであることが示されています。

巣の中と外の温度差が大きくなり(暑くなる)と、まず巣門のある一箇所でハチが羽ばたきを始めます。そこに暖かい排気の流れができると、暖かい空気をさらに排出しようと、近くのハチが集まってきて扇風の群れ(排気口)を作ります。排気口にハチが密集して空気が排出されると、その隣の空いたスペースには自然と冷たい空気が入り込むようになります。冷たい空気の側には羽ばたきが起こらないため、自然と排気口と吸気口が生まれ、空気の摩擦が減ることで効率の良い換気が起こるのです。

つまり、ミツバチはお互いに指示やコミュニケーションをとらずとも、「暖かい気流の温度」を感知することで、次々と扇風の群れを作り、結果的に効率的な換気システムが構築されていくことがわかりました。

 

論文 3 : 2種を混ぜ合わせた「混合コロニー」と単一種のコロニーの比較

では、もし、ニホンミツバチ(トウヨウミツバチ)とセイヨウミツバチを同じ1つの巣(コロニー)に混ぜ合わせたら、彼らはどのように行動するのでしょうか。それぞれの単一種コロニーと比較をして検証を行った論文[3]を見ていきましょう。

研究チームは、2種を1つのコロニーに混合し、巣箱に小型ヒーターを取り付けて内部温度を38度まで上昇させた後、ヒーターを取り外して、巣の中の温度が正常に戻るまでの冷却行動を記録しました。

・   結果 ①:両種とも定位方向を変えない 混合された環境の中でも、両種は本来の定位方向を変えませんでした。ニホンミツバチは頭を外に向け、セイヨウミツバチは頭を巣に向けて、お互いに逆方向を向いたまま羽ばたきを続けました。

・   結果 ②:冷却効率の低下  互いに違う方向に風を送るため気流がぶつかり合い、結果として、セイヨウミツバチのコロニーに比べて冷却効率は低下してしまいました。扇風を活発に行っていたのはニホンミツバチだったため、ニホンミツバチのコロニーと同程度の冷却効率になった。

・   結果 ③:単一種のコロニー同士での冷却効率の差   単一種コロニー同士の比較では、ニホンミツバチのコロニーの方が温度変化に敏感で、早い段階から扇風行動を始めました。しかし、冷却スピードに関しては、セイヨウミツバチのコロニーの方が、より少ない働き蜂でより早く冷却できました。 このことから、暖かい空気を外に引き出す「排出」の方が、巣の中へ空気を送る「送風」よりも冷却効率が優れていることが示唆されました。


第3章:なぜ換気方法が異なるのか?

これまでの研究から、両種の扇風行動には、定位方向を決める「光」、動機となる「温度や気流」、そして「換気効率の違い」など、多くの特徴があることがわかりました。 しかし、なぜ同じミツバチでありながら、真逆の行動をとるのでしょうか。実は、この決定的な理由は現代の科学でもまだ完全には解明されていません。ここで、これまで学んできた内容をもとに、私なりの「仮説」を立ててみたいと思います。

1.進化の過程で刻まれた「遺伝子の本能」

まず、ニホンミツバチが頭を外に向けて送風する理由は、天敵による防御反応のためということを論文[1]で指摘されていました。確かに、ニホンミツバチは、セイヨウミツバチに比べ、天敵への防御反応が高い。ニホンミツバチは、天敵であるスズメバチに対して、集団で襲って熱で蒸し殺す(熱殺蜂球)能力を持っていますが、セイヨウミツバチにはこれができません。 巣門で頭を外に向けておくことは、天敵の接近にいち早く気づくための警戒態勢であり、同時に巣内の匂いを外へ拡散させない(敵に巣の場所を特定されにくくする)ための、理にかなった「生存戦略」だといえます。

しかし、私は、この扇風行動は危機的な環境によって学習された行動(生存戦略)というレベルを超えて、「すでに遺伝子に深く刻み込まれた本能的な動作(単なる動作の1つ)」なのではないかと考えました。

そう考える理由は以下の4点です。

1.       光に対する定型的な反応:光を当てると、誰に教わらずとも両種がそれぞれの定位方向(ニホンミツバチは頭、セイヨウミツバチはお尻)を光の方向へ向けてしまうこと。

2.       定位の強固な補正:物理的に向きを変えられても、即座に本来の向き(定位方向)に補正すること。

3.       温度で集まる : 気流を意識して扇風するというよりは、温度を感知して行動する傾向があること。

4.       混合コロニーでの定位方向:同じ方向を向けば効率良く換気できる状況であっても、それを無視して、本来の向きを変えなかったこと。

もし、環境に合わせて柔軟に学習していけるのであれば、混合コロニーのような極端な状況においては、冷却効率を高めるためにどちらかの種が相手に合わせるような変化があっても良いはずなのに、それぞれの向きを崩しませんでした。この結果は、両種にとって扇風行動が「飛行する能力」と同様、生まれてから誰に教わるでもなく、自然とそういう動きになってしまう遺伝的プログラムであることの現れなのではないでしょうか。

もしかしたら、それぞれの種が、これまでどのような環境で生きてきたのかを緻密に調べていけば、いつかこの「換気システムの違い」の謎を解き明かす時が来るかもしれません。

筆者 : 専務


参考文献 

[1]    「巣内換気におけるニホンミツバチとセイヨウミツバチ の扇風行動の比較」(1996)玉川大学学術リポジトリ

[2] Collective ventilation in honeybee nests  Collective ventilation in honeybee nests - PMC

[3]”Thermoregulation of the Hive” BEE NEWS & VIEWS: The Mississippi Beekeepers Association Newsletter https://extension.msstate.edu/sites/default/files/newsletter/Mississippi%20Beekeeper%20July%20August%202016.pdf

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